【読みもの】READING LIST サンカと出会う読書

【読みもの】

READING LIST サンカと出会う読書

 赤田祐一(スペクテイター編集部)

『スペクテイター』 Vol.55 特集「にっぽんの漂泊民」をより深く楽しんでいただくために、編集部が参考にした本を「READING LIST」として紹介します。


『歴史民俗学 20号 別冊総特集:サンカの最新学』

編集=歴史民俗学研究会(批評社 2001)

『歴史民俗学』は1995年、礫川全次氏を代表とした同名の研究会から創刊されたリトルマガジンの名称で、批評社から刊行されていた。

誌名が示すように、歴史や民俗学に関するレポートと記事、イラストなどで構成されている。在野の研究者による投稿が主体であり、大学や研究機関などのアカデミズムとは無関係であったため、「偽書」(15号)、「刺青」(16号)、「犯罪」(18号)などの自由闊達なテーマ設定が目をひいた。

同誌20号は「サンカの最新学」と銘打って、丸ごと一冊「サンカ」の特集にあてられている。この号は読者からの反応が強く、累計11刷まで増刷されたと、巻頭対談で話している。

「サンカフォークロアの新たな視点をめぐって」(飯尾恭之・礫川全次)、尾張サンカの研究(飯尾)、「『最後のサンカ』加藤今朝松一代記(利田敏)、「サンカ文字の考察」(飯尾)、「三角寛と人世坐」(青木茂雄)などが主なコンテンツ。後半掲載「サンカに関する文献110」(礫川)「三角寛に関する新資料報告」(飯尾)の内容が充実している。

サンカに関するホームページ kumanolife を開設するに至った男性が、サンカへの想いを決定的にした理由について、記事でふれている。

「……1985年に出版された五木寛之さんの『風の王国』と出会ったことによるものでした。小説の中に自分が求めていたサンカの姿を強く感じると同時に、魂が震えるような感動を覚えてしまい、サンカというものが身体の一部のような気がするほど、自分の中で大きなものになってきました。」(中元宏「熊野から見るサンカの世界」)

同誌22号「サンカの最新学2」は20号の続編として刊行された。「サンカ文字は本当にあったのか?」(皆神龍太郎)など、こちらも充実。


『サンカと三角寛』

礫川全次著(平凡社新書 2005)

一般に、日本人は、農耕生活を基本として暮らしてきたとされている。なりわいの基盤を土にもたない者たちの中には、漂泊や放浪を生活の常態としている者が多く、身分制度や村落社会のしきたりの外に暮らす人びとが存在していた。

たたら師、木こり、炭焼き、猟師……そのなかのひとつであるサンカの民は、川魚を漁ったり、箕(み)と呼ばれる竹細工をこしらえたりするところから職能民の一様態であると語られる。

山に生まれ、山に死んだサンカたちの実態には、生の痕跡が残されておらず、文献にも乏しい。実像であるのか幻影なのか、いまだに謎につつまれたままだ。

歴史民俗学研究会代表で在野史家の礫川全次氏は、サンカを5つの類型に分類整理し、これまでサンカ論者、サンカ研究者が、どういう対象をサンカという呼称でくくってきたのか、これまでに語られたサンカ論の流れをたどりながら、三角寛(みすみ・かん)という人物の実像に迫る。

三角寛は戦前にサンカ小説家、サンカ研究者として知られた人物である。(本書の巻末には「三角寛 略伝」が掲載されている)

礫川氏はこの本で、以前からの自説である「サンカ・近代発生説」を唱え、サンカという言葉の発生の解説を試みる。

三角寛が当時、太陽を神とする新興宗教「ひとのみち教団」(現在のP L教団)に入っていたことは、この本で教えられた。


『風の王国』

五木寛之著 全3巻(アメーバブックス発行 幻冬舎発売 2006)

著名作家・五木寛之氏に『風の王国』という小説がある。サンカを登場させた物語として有名なものだ。

山の民が1980年代に再生してくるさまを描いていて、五木の作品では珍しく伝奇ロマン風の物語である。氏は84年、二度目の休筆を体験したのち、「風の王国」を『小説新潮』に3回連載する。翌85年初頭、新潮社から単行本化されて話題を集めた。

あらすじだが、トラベルライターの青年がある日、奈良県の二上山(にじょうさん)の山頂付近を、翔ぶように駆ける若い女性を目撃するところから始まる。彼女は流浪の民「ケンシ」の後裔だった。

五木寛之は「山窩」という言葉を「見当ちがいの俗称」として本作で用わず、山岳地帯を移動したり放浪したりする集団に「ケンシ」という言葉を宛てて、作中に登場させている。ケンシとは「世間師」から転じた言葉で、山の世界と里の世界を流れ生きる漂泊民のことだとある。

ケンシの一族は誇り高く、「千数百年にわたって独自の生活様式と習俗をたもちつづけて」「一所不住(いっしょふじゅう)」で生きてきた。作者は巨大かつ非情な政府権力に風穴を開ける集団として、サンカを念頭に置いてケンシを描いている。

本作を書くにあたり、五木寛之はサンカのことを数年来調べた。三角寛『サンカの社会の研究』などの100冊を超える資料が巻末に記載されている。それまで発表していた『鳥の歌』『戒厳令の夜』などでも、漂泊民をモチーフにした場面が登場しているが、本書が決定版といえる。

新潮文庫でも刊行されていたが、一部改訂された新版が2006年、アメーバブックスから刊行されている(全3巻)。


『サンカ学の過去・現在、そしてこれから』

利田敏・堀場博・礫川全次共著(批評社 2011)

「サンカ学研究会」という民間研究団体があって、歴史民俗学研究会のメンバーを中心に1990年頃に発足されている(中川六平、朝倉喬司、今井照容らの「サンカ研究会」とは、名前が似ているが別団体)。

そのサンカ学研究会が中心となり、研究活動の一環として批評社から発刊された「サンカ学叢書」(全5巻)がある。

いずれの巻も読み応えがあるが、シリーズ最終巻にあたる『サンカ学の過去・現在、そしてこれから』を取り上げたい。

全体は二部構成。一部は礫川全次・利田敏による対談で、2016年にテレビ朝日で放送されて話題を呼んだサンカの末裔、松島一家を紹介した番組(「報道発・ドキュメンタリー宣言」)の反響や苦労話で構成されている。利田氏はその番組の担当ディレクターを務めていた。二部は資料編と題して、サンカに関する過去の地方新聞、雑誌、公布物などに掲載されていた文献を発掘して再録。同研究会会員の堀場博が解題をつけている。

サンカについての未知の文献は、まだ掘りがいがありそうだ。


『サンカの民と被差別の世界』

五木寛之著(ちくま文庫 2014)

「隠された日本」と題されて、ちくま文庫から再刊されたシリーズのうちの一冊(全5冊)。日本の歴史の中で一般にはあまり知られることがなく、表舞台に出てこない人びとを、作家の視点から考え探っていくというのがこのシリーズのテーマで、本作は「中国・関東」編にあたるものである。

かねてから著者は、日本の歴史を平野の生活民中心に考えるのは問題ではないかという意識をいだいていたとして、山、そして海に暮らす人たち(マージナル・マン)に目を向けた。本書で取り上げられた山の漂泊民とはサンカのことを指し、一方で、海の漂泊民もいたと書いている。「家船(えぶね)」漁民といって、海の上で暮らし、漁を主体とした生活を送っていた人々である。家船が多くみられたのは瀬戸内海だったそうだ。

「……その人たちは年に一度か二度、周期的に訪ねてきて籠(かご)を直したり、農具の箕(み)を修理したりしていた。(略)それ以来、この列島のなかを、あたかもリンパ球のように流動する人びとが存在する、というイメージをずっと抱いてきた。定住民のあいだを非定住民が漂泊し、流動することによって、日本列島の文化というものはいつも活性化されつづける。そんなふうに勝手に想像していたのである」(同書)


広島で開催された「サンカ研究会」の席で、五木寛之はサンカの末裔であるという男性と出会うことになるが、その男性は五木氏がサンカの存在をつよく意識して書いた小説『風の王国』の熱心な読者であった。

外地からの引き揚げ者であった五木寛之は、少年時代に生活していた九州山地で、山を回遊して家にやってくる非定住民の人たちとの出会いの体験があったそうで、それが記憶に鮮烈に残っていた。しばらくして、あの人たちは「サンカ」ではないかと思い至った、と書いている。


『山窩奇談 増補版』

三角寛著(河出文庫 2023)

現在では絶滅をささやかれるサンカの民だが、その社会や暮らしぶりがどんなものだったかという感触をつかむためには、やはりサンカ研究の第一人者と称された三角寛の著作に当たるのがよいだろう。

三角寛は1926年(大正15年)朝日新聞社に入社。事件記者として活躍し、大正末期から昭和初期の帝都東京を震撼させた「説教強盗」の報道で一躍、その名をあげることになる。

取材中、三角は警視庁の老刑事と親しくなる。その当時、警察が逮捕困難だった犯罪や事件の容疑者を「サンカたちの仕業である」として、強引に事件の犯人呼ばわりする場合がよくあったそうだ。その老刑事はサンカ社会に何人も諜者と呼ばれる内部協力者(スパイ)を使役していたというが、三角は警察情報を経由してサンカの存在を知るところとなる。

サンカの生態に興味を抱いた彼は、一升瓶を下げて彼らの住居をこまめに訪ね歩き、サンカたちと接触をはじめるのだ。

フィールドワークのように知識を吸収することで、1932年(昭和7年)、「実録」と称する小説をペンネームで大衆雑誌に発表。人気を博す。

翌33年、新聞記者を辞めて物語作家に転身して、本名の三浦守から作家・三角寛に改名。猟奇的な小説がベストセラーとなり、およそ二百本あまりも山窩小説を発表。

同書は小束国八(おつか・くにはち)と呼ばれる老人からの聞き書きをもとに掘り起こされた列伝形式で構成されていておもしろい。ただし、三角の著作は基本はフィクション(娯楽小説)であることを忘れがちなので、現実との混同に注意が求められる。

初刊は1966年、東都書房刊。


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特集 にっぽんの漂泊民

発売日 2025130

定価 1,200円(税別)