【読みもの】『パソコンとヒッピー』ができるまで 連載2回目

【連載2回目】
『パソコンとヒッピー』ができるまで
雑誌『スペクテイター』の冒険、その現在地
取材・構成 桜井通開
赤田祐一インタビュー 1
『パソコンとヒッピー』原作者であり、『スペクテイター』編集者でもある赤田祐一さんに、作画の関根美有さんとのコラボレーションなどについて、お話をうかがいました。
関根さんと知りあったきっかけ
───作画の関根さんとは、どのようなきっかけで知りあったのでしょうか。
赤田 コミティアという、年4回ひらかれる、創作マンガの同人誌即売会がありまして、割とよく行きます。コミティアには、イベント情報のフライヤーとかマンガの冊子を無料でもらえる一角があり、そこで、ホチキスどめで16ページほどのコピー冊子をもらったのが、関根さんの作品を知ったきっかけで、「あのこ」というタイトルだったと思います。『スペクテイター』では、イラストでも文章でも、執筆いただける方を常時さがしているのですが。コミティアにかぎらず、文学フリマとか、同人誌の即売会で冊子を買って、そこにのっている連絡先から声をかけるというのが、あたらしい書き手を探す方法としては多いですね。
関根さんに最初に描いていただいたのは、「カレー・カルチャー」(2017年、Vol.40)の号で、これは関根さん単独でマンガを描いていただいたものです。僕と組んでやらせてもらったのは、「わび・さび」(2019年、Vol.43)の号が最初ですね。このころは比較的みじかいものでしたが、何度かやらせてもらって、最近はだんだん長くなってきてます。
関根さんとのコラボの手順
───(雑誌でページ数を確認して)「わび・さび」のときは23ページだったのが、「パソコンとヒッピー」では120ページ以上になっていますね。関根さんとのコラボのしかたとしては、具体的にどのような手順でおこなわれるのでしょうか。
赤田 最初に原作のテキストをお送りします。マンガの総ページ数をお伝えして、それは第1章=◯◯ページ、第2章=◯◯ページ…というふうに、各章ごとのページ数も伝えます。それにたいして、関根さんから、ラフとコマ割り、ネーム(セリフ)が入ったものがPDFで届きます。それを確認して、よければ、これでペン入れしてください、と伝えます。
───ラフというのは、ざっくりした絵、みたいなやつでしょうか。
赤田 走りがきのような、マルかいてチョン、みたいなやつですね。
参考資料が重要
───そのラフとコマ割り、ネームが入ったものが来て、そこにペン入れして仕上げる、という2段階ですね。
赤田 そうです。あと、原作のテキストをお送りするときに、作画の参考資料もあわせて送ります。具体的なイメージがわかるように、人物の顔写真であるとか、歴史上の風景であるとか、そういうものを、こちらで集めて、PDFにして送ります。もちろん著作権上の問題もありますから、このとおりに模写してくれ、ということではないですが、このページではこういうイメージを使ってほしい、というポイントを投げて、そこであるていど作品のトーンを形成してもらう。細かいアレンジは任せるけれど、作品のイメージを共有していただく、ということですね。最近では原作を仕上げるだけで力尽きてしまうので(笑)、この画像探しは、青野さんにお願いすることも多いです。しかし、当然ですが青野も僕とまたちがう感覚なので、青野が集めてくれた画像を、この女性はこの時代の顔画像が適切ではないか、といったふうにわりと細かく話しあって、このページにはこの図版、というふうに決めていったものを、PDF化して、それを参考資料として、関根さんに送ります。
───なるほど。参考資料が重要な役割を果たしていたのですね。
赤田 それで関根さんは、原作のテキストと参考資料を見て、大体1週間ほどでしょうか、しばらくイメージを頭のなかで発酵してもらって、それでコマ割りを出してもらう、というようなはこびですね。コマ割りはすごく重要で、マンガを決定して主導する技術だ、と思っています。もちろん画もだいじなんだけれど、このばあい画面構成がたいへん重要なのです。というのも、これまで話のなかで、マンガ、マンガと呼んできているのですが、実態はイラストの積み重ねとセリフで構成された、マンガ形式によるグラフィック・ストーリーなんだと思うのです。コマに緩急をつけたりして、読者を飽きさせず、最終的にいかに気持ちのよい流れをつくって、マンガを見せるか、というのがコマ割りの要諦ですね。
マンガの原作はシナリオ
───赤田さんが送る原作テキストの時点で、コマは割っていないにしても、地の文とネーム(セリフ)にあたるものは、すでに書かれているのでしょうか。
赤田 書いてあります。
───ということは、実質シナリオですね。
赤田 シナリオの書式では書いてないのですが、50~60枚程度の長めのエッセイを書くような気持ちで書いたりはしています。昨年に単行本化した『ヒッピーの教科書』などは、そうですね。
関根さんのマンガには「風の道」がある
───マンガの原作というのはふつう、シナリオ形式で書かれているのでしょうか。
赤田 マンガの原作=シナリオ、と考えていいと思います。それと、あまりくどくはやらないけれど、演出というか、画にかんする参考意見、コメントを書くことがあります。この見開きは鳥瞰図のイメージとか、ここはまるまる均等コマがつづくのはどうでしょうとか。コマ割りはレイアウトでもあるわけで、関根さんは、画面構成の感覚がすぐれた作家だと思います。僕は根が貧乏性なもので(笑)、原作を書くとき、ついつい情報を詰め込みがちなのですが、関根さんはいつもそこに「風の道」のようなものを、ふわりとつくってくださる。
───関根さんのマンガには、たしかに「風の道」のようなものがありますね。(③へつづく)
